皮膚糸状菌(Microsporum spp.,Trichophyton spp.など)の診断に便利なダーマキットですが、実は正しく使うのは簡単ではありません。「培地の色が赤くなったら陽性」だけでは間違って判定してしまうことがあります。使い方にはいくつかのポイントがあるので、それを解説したいと思います。
注:皮膚糸状菌の診断は感染毛の鏡検が原則です。結果もその場で出るため治療もすぐに開始できます。ダーマキットはあくまで補助的に使用して下さい。
ダーマキットのコツはこの4つです。
① ウッドランプで光る毛を培養に使う(犬・猫)
② 患部をアルコールで拭き、毛の根元だけを培養に使う
③ 白色コロニー以外は無視する
④ 接種したら毎日観察する
それでは、それぞれについて解説します。
① ウッドランプで光る毛を培養に使う(犬・猫)
ウッドランプで光る毛を採材すると、培養される確率が高まります。ただしげっ歯類に主に感染するTrichophyton属はウッドランプで光りません。
② 患部をアルコールで拭き、毛の根元だけを培養に使う
動物の毛には雑菌が付着しているので、毛をそのまま培養するとそれも培養されてしまいます。雑菌の中にも培地を赤く変色させるものがいるので、誤判定の原因になります。
皮膚糸状菌は毛の中に感染しているので、アルコールで表面を消毒しても検査に悪影響はありません。採材前に患部をアルコール綿で拭き、雑菌を取り除きましょう。
皮膚糸状菌はまず毛根から感染巣を作るので、毛の根元から1~2センチだけを培養に使うことでもコンタミを減らすことができます。
③ 白色コロニー以外は無視する
皮膚糸状菌のコロニーは白色です。緑や黒のコロニーは雑菌なので、培地を赤変させたとしても無視します。
ハリネズミの針から培養されたCladsporium spp. 代表的な雑菌。
④ 接種したら毎日観察する
皮膚糸状菌は、発育直後のごく小さいコロニーのうちから培地を赤変させるのが特徴です。このため、接種したら毎日培地を観察しましょう。
説明書に「14日間観察する」とあるので、培養を開始してから14日後だけ観察する方もいますが、それでは判定の重要なポイントを見逃してしまう可能性が高いです。
雑菌は発育してしばらく経ってから培地を赤く変色させますが、皮膚糸状菌のコロニーは発育と同時に変色させます。
ここで具体例を。
ダーマキット上のMicrosporum canis、10日目。コロニー発育開始と同時に培地を赤変させています。
Fusarium spp. 3日目。白いコロニーが成長しているが培地の変色は見られない。
Fusarium spp. 14日目。時間が経過しコロニーが大きくなってから培地が赤変。
14日目だけの判定だと、Fusarium spp. も皮膚糸状菌と誤判定されてしまう可能性があります。
MycoLaboではダーマキットに生えた真菌の同定も行っています。これ本当に皮膚糸状菌?と迷ったときはご相談ください。
余談|なぜダーマキットは赤くなるの?
ダーマキットの培地にはアルカリで赤くなる指示薬が入っています。皮膚糸状菌は角質に好んで棲むだけあってまず蛋白を栄養源として分解する特徴がありますが、蛋白の分解産物で培地がアルカリに傾いて赤くなります。
皮膚糸状菌ではない菌はまず糖分を栄養源として利用するため培地は酸性化するのですが、培地の糖分を使いつくすとしぶしぶ蛋白を分解し始める菌もいるため、皮膚糸状菌でなくても時間が経つと培地が赤くなることもあります。
このため、「いつ」培地が赤くなるかという情報がとても大事です。また、色の変化も皮膚糸状菌の場合はしっかり赤くなりますが、それ以外の菌だと赤みが弱かったりオレンジ色っぽいことも多いです。