MycoLaboの検査を利用した論文が発表されました。
猫の皮下黒色真菌症からExophiala dermatitidisが初めて分離された
Case report: First isolation of Exophiala dermatitidis from subcutaneous phaeohyphomycosis in a cat.
Osada, H., Nagashima-Fukui, M., Okazawa, T., Omura, M., Makimura, K., & Ohmori, K. (2023). Frontiers in Veterinary Science, 10.
食道カテーテル抜去後、その部位に皮下腫瘤が発生した猫の症例です。皮下腫瘤からはExophiala dermatitidisという真菌が検出されました。本症例は化膿性リンパ形質細胞性胆管肝炎の治療のためステロイドを投与されており、これが感染の背景となった可能性があります。
E. dermatitidisは環境中に普遍的に存在するいわゆる「黒カビ」で、耐熱性があるため食洗器やサウナなどに生えていることがあります。人の感染例では皮膚または皮下感染症と呼吸器感染症が多いですが、播種性感染を起こすこともあります。獣医療域では犬の皮下結節と腹腔内腫瘤の報告があります。
本症例は当初イトラコナゾールによる治療が行われましたが、ビリルビン値の上昇と食欲低下の副作用のため継続できませんでした。このため病変部の洗浄とケトコナゾールの局所投与が行われましたが病変は拡大し、31病日に死亡しました。
分離された株はアムホテリシンBとアゾール系に感受性がありました。しかしアムホテリシンBは腎障害、アゾール系は肝障害の副作用があり、肝・腎機能ともに問題がある本症例では薬剤選択に難渋しました。
深在性真菌症を発症する動物は本症例のように背景疾患があることが多く、副作用や既に使われている薬剤との相互作用が問題になることが少なくありません。データも少なく、症例毎に臨機応変な対応が求められ、難しい戦いになることも多いです。本症例は猫からE. dermatitidisが検出された初の報告となりましたが、このようなデータの積み重ねで、動物の深在性真菌症の医療も一歩ずつ前進していくことが期待されます。