抗真菌薬
抗真菌薬の選択肢は増えたものの、副作用や相互作用など使い方が難しい面もあります。臨床獣医師にあまりなじみのない、深在性真菌症に使用される抗真菌薬についてまとめました。
細菌は原核生物であり、真核生物である動物と構造上の違いが多くあるためそこをターゲットにたくさんの抗生剤が作られました。ところが真菌は動物と同じ真核生物であり、細胞レベルでは構造が良く似ているため、真菌だけ殺して宿主の細胞は傷つけない抗真菌薬の開発は難しいものでした。抗真菌薬の開発は抗がん剤よりも難しいといわれることもあります。
人医療では医療の発達にともなってがん患者や移植者などの免疫不全者が増えるにつれ、カンジダ症やアスペルギルス症などの深在性(内臓)真菌症が増えました。必要に迫られる形で抗真菌薬の開発は進み、以前と比べると使用できる抗真菌薬は増えています。
薬は増えたものの、残念ながら動物では深在性真菌症に対する抗真菌薬使用のデータはあまり蓄積されておらず、治療は手探りの現状です。ここでは獣医師になじみのない深在性真菌症に使用される抗真菌薬についてまとめました。
アムホテリシンB
抗真菌薬の歴史は実質アムホテリシンBからはじまりました。抗真菌スペクトラムが広く、効果が強く、耐性菌がほとんど出ないという三拍子揃った薬ですが、副作用が強いため現在では第一選択薬の座をアゾール系薬に譲るケースが多くなっています。しかしアムホテリシンBにしか感受性を持たない真菌の治療や、急性や重症の真菌症の場合には頼りになる薬です。
アゾール系薬
アゾール系薬はアムホテリシンBと比較して副作用の点で大きく改善され、現在の真菌治療の主力です。現在第4世代まで開発され、世代が進むたびに改善され使いやすくなっています。アゾール系薬はチトクロームP450(CYP)を阻害して作用を現すのですが、動物細胞のCYPにも若干作用するため、この酵素で代謝される多くの薬に影響を与えます。このため併用禁忌または注意の薬剤が多いという問題があります。また長期使用により耐性化し、アゾール系薬間で交差耐性が起こることもあります。
キャンディン系薬
キャンディン系薬は動物細胞にはない真菌壁の1,3-β-Dグルカンを阻害して効果を現すため、上記2薬と比較して副作用が少ないという特徴があります。抗真菌スペクトラムは狭く、クリプコックスやムーコルには効果がありませんが、真菌症の多くを占めるカンジダとアスペルギルスには有効で比較的安全に使用できる薬として価値があります。
現在日本の犬猫の診察で使われるのはイトラコナゾールがほとんどという現状ですが、イトラコナゾールでは治療できない真菌が検出される機会も増えています。また患者さんの状態によっては副作用や併用薬の関係でイトラコナゾールが使えないという状況も起こります。
抗真菌薬は副作用が強いものが多く、また使い方に配慮が必要なことも多いのでたしかに気軽に使える薬ではありませんが、イトラコナゾール以外の選択肢を持っておくことは重要です。
抗真菌薬の分類
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エルゴステロールに 結合して細胞膜を破壊 |
ポリエン系 | アムホテリシンB(AMPH-B) |
---|---|---|
アムホテリシンBリポソーム製剤 (L-AMP) |
||
DNA合成阻害 | ピリミジン系 | フルシトシン(5-FU) |
エルゴステロール合成阻害 (チトクローム P450 に作用) |
イミダゾール系 | ミコナゾール(MCZ) |
クロトリマゾール(CLZ) | ||
ケトコナゾール(KTCZ) | ||
トリアゾール系 | イトラコナゾール(ITCZ) | |
フルコナゾール(FLCZ) | ||
ボリコナゾール(VRCZ) | ||
ポサコナゾール(PSCZ) | ||
ラブコナゾール(RVZ) | ||
イサブコナゾール(ISCZ) | ||
エルゴステロール合成阻害 (スクアレンエポキシダーゼを阻害) |
アリルアミン系 | テルビナフィン(TBF) |
細胞壁のβ-D-グルカン合成阻害 | キャンディン系 | ミカファンギン(MCFG) |
カスポファンギン(CPFG) |
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薬品名 | アムホテリシンB(AMPH-B) |
---|---|
剤型 | シロップ、注射薬(経口薬は消化管カンジダのみ有効) |
特徴 |
|
適応 |
|
副作用 |
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使用上の注意 |
|
薬品名 | フルシトシン(5-FU) |
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剤型 | 錠剤 |
特徴 |
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適応 |
|
副作用 |
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使用上の注意 |
|
薬品名 | ケトコナゾール(KTCZ) |
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剤型 | 錠剤(国内未発売) |
特徴 |
|
適応 |
|
副作用 |
|
薬品名 | イトラコナゾール(ITCZ) |
---|---|
剤型 | 錠剤、カプセル、内用液 |
特徴 |
|
適応 |
|
副作用 |
|
使用上の注意 |
|
薬品名 | フルコナゾール(FLCZ) |
---|---|
剤型 | カプセル、ドライシロップ、注射液 |
特徴 |
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適応 |
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副作用 |
|
使用上の注意 |
|
薬品名 | ボリコナゾール(VRCZ) |
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剤型 | 錠剤、ドライシロップ、注射液 |
特徴 |
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適応 |
|
副作用 |
|
使用上の注意 |
|
薬品名 | キャンディン系(MCFG、CPFG) |
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剤型 | 注射液 |
特徴 |
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適応 |
|
副作用 |
|
使用上の注意 |
|
抗真菌薬の組織移行性
抗真菌スペクトラム
抗真菌薬のスペクトラムの大まかな傾向は以下の通りです。実際の薬剤感受性は菌種によって異なり、例えばフルコナゾールはCandida albicans には有効ですが、同じカンジダでもC. glabrata、C. krusei には効果がありません。また同じ菌種であっても株によって薬剤感受性が異なることがあります。
抗真菌薬は副作用も多く、使用期間も長くなるため、薬剤感受性を調べてから使用することが望ましいです。
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カンジダ | アスペルギルス | クリプトコックス | ムーコル | フザリウム | |
---|---|---|---|---|---|
アムホテリシン | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | 〇 |
フルシトシン | △ | × | △ | × | × |
イトラコナゾール | △ | 〇 | 〇 | △ | × |
フルコナゾール | 〇 | × | △ | × | × |
ボリコナゾール | ◎ | ◎ | ◎ | × | 〇 |
ポサコナゾール | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
キャンディン系 | ◎ | ◎ | × | × | × |
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抗真菌薬一覧
深在性真菌症の治療に使われる主要な薬です。
参考文献
獣医微生物学第四版/文永堂出版
小動物の治療薬第3版/文永堂出版
Infectious Diseases of the Dog and Cat Fourth Edixtion/Saunders
病原真菌と真菌症改定4版/南山堂
“Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America.” Clinical Infectious Diseases: An Official Publication of the Infectious Diseases Society of America 62 (4): e1–50.
“Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Aspergillosis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America.” Clinical Infectious Diseases: An Official Publication of the Infectious Diseases Society of America 63 (4): e1–60.
“Clinical Practice Guidelines for the Management of Cryptococcal Disease: 2010 Update by the Infectious Diseases Society of America.” Clinical Infectious Diseases: An Official Publication of the Infectious Diseases Society of America 50 (3): 291–322.