三大深在性真菌症
真菌の中でも病原性を持つものは世界では約400種、日本では約50種あると言われていますが、臨床の現場ではアスペルギルス症、カンジダ症、クリプトコックス症の3つが多くを占めています。
このグラフは人の病理剖検のデータから真菌症の発生頻度を現したものですが、アスペルギルス症とカンジダ症の発生が多く、真菌症全体の発生は増加傾向であることがわかります。 動物の疫学でまとまったデータはありませんが、同じような傾向があると思われます。
グラフ:人の病理解剖による深在性真菌症の発生率の変化(日本医科大学客員教授・久米光先生のご厚意により掲載の許可をいただきました)
アスペルギルス症
―呼吸器感染症
アスペルギルス症
―呼吸器感染症
アスペルギルスは環境中にありふれて存在する真菌で、空気中に漂うアスペルギルスの分生子を吸い込むことによって体内に入ります。人は一日数千個のカビを吸い込んでいるとも言われていますが、通常は体の免疫が働いて感染に至ることはありません。糖尿病などの基礎疾患、過去の肺疾患、抗がん剤の使用など何らかの背景があると、アスペルギルスは主に呼吸器に感染症を引き起こします。
犬や猫では、鼻腔の感染が最も多いケースですが、眼窩や肺、中枢神経系への波及、全身の播種性の感染もまれに認められます。人ではアスペルギルスによるアレルギー性の気管支肺真菌症も問題になっています。
鳥は気嚢を持つという解剖学的な構造ゆえ、呼吸器のアスペルギルス感染症が多く発生します。鼻腔、副鼻腔、気管や肺、気嚢に感染巣を作り、レントゲンで球状の陰影(ファンガスボール)として確認できることもあります。慢性経過のことが多いですが、急性に全身に播種していくこともあります。
カンジダ症
―粘膜感染症と敗血症
カンジダは動物の口腔内や消化管、膣や上気道の粘膜、皮膚などに常在し、宿主の免疫低下で日和見感染を起こします。抗生剤の長期使用による菌交代症に起因するカンジダ症も散見されます。
犬や猫では膀胱炎が最も多く、皮膚炎や角膜炎も見られます。カテーテル(胃ろう、血管、膀胱)から感染することもあり、敗血症を引き起こすこともあります。
鳥では消化管のカンジダ症が問題になることが多く、口腔内に白い病変が見えたり(口腔カンジダ症)、消化管内にカンジダの異常増殖が起こることがあります(胃腸カンジダ症)。発症には食餌の影響も大きいと言われています。
クリプトコックス
―呼吸器症状と脳脊髄炎
クリプトコックス
―呼吸器症状と脳脊髄炎
クリプトコックスは土壌に住む真菌で、粉塵として空気中に舞い上がったものを吸い込むことで動物に感染します。クリプトコックスというと鳩を連想する方も多いと思いますが、鳩の体内で増殖しているわけではなく、土壌中のクリプトコックスが鳩の糞を格好の培地として増殖するために、鳩の糞が感染源となります。
犬猫では特に猫に発症が多く、発症は主に日和見的ですが、健康な動物でも発症することがあります。症状は上部呼吸器症状が主ですが、髄膜炎や皮膚炎を起こすことがあります。