MycoLaboの検査を利用した論文が発表されました。
ゴールデンレトリバーのScedosporium apiospermumによって引き起こされた多発性腹腔内真菌肉芽腫はボリコナゾールで効果的に治療された
Multiple intra-abdominal fungal granulomas caused by Scedosporium apiospermum effectively treated with voriconazole in a Golden Retriever.
Yoshimura, A., Fukushima, R., Michishita, M., Omura, M., Makimura, K., & Azakami, D. (2023). Medical Mycology Case Reports, 100611.
腸管吻合術の履歴がある犬の腹腔に発生した真菌性肉芽腫の症例です。原因菌はScedosporium apiospermumという糸状菌でした。S. apiospermumは環境中に普遍的に存在しますが、水との関連が深く、溺水後の肺に感染することが知られています。東日本大震災では津波に巻き込まれた方にこの真菌による肺真菌症が散発し、津波肺とも呼ばれました。
本症例は腹腔内に大小さまざまな腫瘤が発生し、FNAで菌糸が確認され培養でS. apiospermumが検出されました。S. apiospermumは多くの抗真菌薬に自然耐性を示しますが、やはり本株も多剤で感受性が低下していました。獣医療でよく使われるイトラコナゾールのMICは>8μg/mLと強い耐性を示していました。
モコモコとしたカリフラワーのような厚みのあるコロニー。
肉芽組織に包まれ腫瘤化した真菌には抗真菌薬が浸透せず、内科的治療の効果は限定的なため、まず外科的切除が行われました。そして取り切れなかったものに対してボリコナゾールによる内科的治療が行われました。
真菌性肉芽腫の治療は、悪性腫瘍の治療にも似ています。まずは外科的に減容積を行った後、抗真菌薬を使用しながら寛解を目指すという戦略です。治療経過の中で原発部位で再発が見られたり、他の臓器に播種する可能性があるところも同じです。
既報では犬のS. apiospermum感染の予後は悪く、治療に反応した例はありませんでした。一方本症例の病変は完全に消失はしていないものの、一般状態は改善し、抗真菌薬の投与を行いながら良好にコントロールされています。薬剤感受性試験を事前に行ったことで、効果のないイトラコナゾールを避け、効果が期待できるボリコナゾールを選択できたことが良好な治療経過の一因と考えられます。